moetudukeruonnaのブログ

娘が罹患した失統との闘い

少々困った認知症②

私の父は認知症と言っても「まだらボケ」で
ボケていても 急に正気に戻る時があった。


父は町の銭湯に行くのが好きだった。


家に内風呂はあるのだが 地域の福祉サービスの銭湯券を持って
月に数回 無料で利用する。


その日は、午前中はいつもの外科病院でマッサージ・リハビリを終え
父宅で 私の用意した昼食を食べた直後のことである。
ガサゴソと洗面器を用意して「風呂屋に行く」と言う。
銭湯の営業時間は 夕刻4時からである。父はいつも一番風呂に入っていた。


しかし、昼食を終えたとは言え まだ午前の11時近くである。
私は「えっ!?、まだ店が開くまで5時間あるよ」と言ったら
「5時間?、そんなんすぐに経つ」と言う。
5分と間違えていたのかも知れない。


父は サッサと身支度を整えていた。いくらなんでも父に付き添って5時間も銭湯の前の椅子で待つ訳にはいかない。
私は 多分 風呂に入りたいのだろう と思って、倹約家の父を説得する方法を試みた。
「家にも風呂があるし 一回分のガス代など100円くらいなもので、夕食を宅配で届けてくれている業者は いつも100円 値引きしてくれている。
風呂に100円遣っても 他の方法で元は取れているから。」と説得した。


父は その気になったのだろう。私が大慌てで風呂を用意するまで待ってくれた。


湯船に浸かる父を見て、私は安心して昼食後の片付けを始めた時である。
1分も湯に浸からぬ内に 父は身体を起こし 風呂を出て来た。
「風呂屋に行く」と言う。


結局、父は自転車にまたがって一人で銭湯に向かった。
高齢者は脱水症状を起こしやすい。私は父の外出に付き添う時は必ず飲み物を用意していた。


その時も、もう父を止める方法は見つからず
蜂蜜入りのホット牛乳を用意して、父の望み通りに銭湯の入り口で営業時間が来るまで待つことを覚悟した。
昼の12時頃だった。
父の自転車を 一旦 父宅まで運び、座布団・毛布・飲み物を車に積んで、私は風呂屋に向かった。
風呂屋の前には長椅子がある。そこに座布団を敷き、毛布を父の膝に掛け 時々牛乳を飲ませて…長丁場を一緒に父と過ごす…営業時間まで4時間待てばいい。
父が入浴している4時から5時までの間に、近くのスーパーで買い物を済ませ  また父を迎えに来ればいい。
私は明日の昼食の材料に何を買えばいいか メニューを考えながら、寒い中を父と共に長椅子に座って ひたすら4時が来るのを待った。


銭湯には営業1時間前の3時にパートの小母さんが出勤して準備を始める。
父とは顔なじみの小母さんである。
3時に出勤してきた小母さんは 父を見ると
「あれっ! お爺ちゃん!、まだこれから用意するから まだまだ、あと1時間は待たんとアカンよ」と 声を掛けた。


その時、父は正気に戻った。
「え?、なんて?、まだ1時間も待ち時間があるのか!?
そんなん 待ってられんなぁ!、今日はもう 帰ろう。今度にしよう。」


父はサッサと家に帰る決断を下した。


私は 待った4時間が徒労に終わったのを知った。