moetudukeruonnaのブログ

娘が罹患した失統との闘い

無邪気な認知症①

私の父は認知症になる前から 物を拾って来るのが好きだった。
孫に与えるつもりでボールを拾って来たり、ゴミ捨て場に捨てられた余白の残るスケッチブック・ノート、忘れ物の傘などはちゃっかり拾って来ていた。


戦争を体験しているからか、物を粗末に扱うのはNGだ。
使える物を そのまま捨ておくのは忍びないらしい。
よく 街中のマンションのゴミ置き場に行って 様々な物を拾って来ては「マンション住まいの人は贅沢だ。まだ使えるのに。」と言っていた。


父は、体裁は 全く気にしない。
拾ってきた くたびれたジャンパーを羽織り、何か使える物が捨てられていないか
マンションのゴミ置き場をあさるのである。
婦人服であったり、紳士物の靴であったり 上着であったり、鍋であったり… とにかく『収穫』があると、嬉しそうにどこそこのゴミ置き場で拾って来た、とニコニコしながら報告するのである。


認知症は 父を無邪気にさせた。
ある日、千円札を大事そうに私に見せ どこそこのマンションのゴミ置き場で『いい物』は無いか探していたら男の人が一人近付いてきた と言う。
そのマンションの住民にすれば ゴミを探られるのは 決して気持ちのいいものではない。
父も ボケながらも、怒られるかな? と言う気持ちも持っていたようだ。
しかし その男性は何も言わずに千円札を父に握らせたらしい。


「なんで あの人、千円くれたんやろなぁ?」


父は嬉しそうにしながらも、本気で不思議がっていたのである。


(こんな話をお福や太郎に聞かせて
「お祖父ちゃん、かなわんで」と笑うのである。)