moetudukeruonnaのブログ

娘が罹患した失統との闘い

天の使いだったかも知れない店子さん ①

現在の生活もそうだが 私は親から譲り受けた古アパートの家賃収入を得ていた。当時は老齢年金も貰っていなかったので家賃収入が主たる生活の資金源だった。
その古アパートの管理人から かんばしくない報告を受けたのは、お福に自立を強いてから数ヵ月経った頃だった。
 
以前から その店子さんの様子がおかしく、それでも遠方に住んでいる兄弟が、数年間にわたり家賃を払ってくれていたが、来春 定年退職するので もう家賃は立て替え払いが出来ない と言う。
店子さん本人の様子は と言うと…
貯金も収入もなく 浮浪者の様な生活をしていると言う。
もう既に料金滞納の為 ガス・水道・電気も止められたままで電話もストップされた状態らしい。
しかもアパートはゴミ屋敷になっている。生活保護を受ける様に勧めても 本人は全くそんな気は無いらしい。管理人としてはお手上げだと。
 
私は大いに困った。大事な生活資金源である。お福に助っ人を頼んだ。
「古アパートのおっちゃんに生活保護を受けてもらうように、一度 現地に出向いて本人に会いたいのだけど、一緒に行ってくれないか?」と。
驚いたことに ずっと引きこもりを続けていた お福なのに
「ちょうど良かったわ。やる事がなくて退屈だったから行くわ!」と明るく引き受けてくれた。
 
かくして 女二人が電車を乗り継いで 見知らぬ男を訪問することとなる。
 
本当に古い汚いアパートだった。
明らかに使わないであろう 鍋ややかん、錆びた冷蔵庫や炊飯器の類も多数 部屋の中に無秩序に散乱し、外にも荷物は溢れかえっていた。
缶や瓶もうんざりするほど部屋にうずたかく積まれ その上に汚れた布団が乗っかっている始末である。
物を拾って来る収集癖は 私の父にも見られたが、 その整理整頓の仕方が全く違っていて どう見ても異常だった。



天の恵みか 店子の男性はおとなしい人だった。



私は口下手なので多くは喋らなかったと思う。
「自分はここの家主だが 家賃を払って欲しいので生活保護を受けてくれないか?」
それだけ言ったと思う。
もう何日もお風呂なんかは入ってなさそうな彼は髪もよれて固まり、傍に立つとプンと汗まみれの体臭がくさかった。
「はい」とだけ頷いてくれたと思う。
「生活保護を申請するには色々な手続きが必要だと思うけれど 私も手伝うのでお願いします。」と頼んだ。
あと二言三言 何か喋ったが内容は覚えていない。
 
ただ印象に残ったのは 男性の話声が非常に弱々しく 蚊の鳴くような小さな声だった事である。
私は思った。お福に似ている。
お福も 狭小住宅で、色んな妄想を話している時も、何気ない日常の話し声も こちらが聞き取りにくい程の弱々しい声だった。
お福も家に帰ってから「あのおっちゃん、声が小さかったなぁ」と言っていた。自分とそっくりな口調だった事には気づいていない様子だったが…
 
 
ともかく…前進できるメドがついた。
 
その頃、父親の方は容態も安定して 療養型の病院に入っていたと思う。
父を見舞うのは相変わらず怖くて 安定剤なしでは病室に入れなかったが
私の肩には 寝たきりの認知症父親、怠け病っぽいすねかじり娘、の二人がいつも重くのしかかっていた。
 
コッチの方(店子さん)もなんとかせねばならない。
私は戦闘態勢で、何度にもわたり 電車を乗り継ぎ、 ぼろアパート・その地域の保健所・市役所に通う事となる。